契約を契約書にする意味は?
契約を契約書にする意味は?
日常生活では、ほとんどが口約束で、重要な局面でのみ契約書が交わされています。
ですが、重要な局面だけではなく、普通に日常生活を過ごしていても往々にして口約束だけだと上手くいかず、ことによっては大変な事態が起こってしまうことがあります。
次のような事例ではどうでしょうか。
昔から幼馴染で仲の良いAさんとBさんが、居酒屋に飲みに行きました。
楽しくお酒を楽しんだ後、会計をしようとレジの前に…。
いつものように割り勘にしようと考え、財布を中身を見たAさんは焦りました。
手持ちのお金が割り勘金額に足りないのです。
給料日前でもあったAさんは、Bさんに
「悪いんだけど給料日前で手持ちが無いんだ…。すぐ返すから、ちょっとお金貸してくれないか。」
とお願いしました。
Bさんも給料日前で厳しい懐具合でしたが、たまたま、毎月買っていた宝くじが前日に10万円当たったため、飲み代+αとして合計5万円を貸してあげることにしました。
それから1か月、2か月、半年が経ちましたが、Aさんから一向に貸した5万円の話は出てきません。
そこで、Bさんが
「ところで半年前に貸した5万円のことだけど…。」
と話を切り出しました。
そうするとAさんは
「えっ、俺5万円なんて借りたっけ。」
と返答しました。
Aさんは酔っていたのかどうか、お金を借りたことすら、すっかり忘れていたのです。
ここで口約束の問題が生じます。
確かに、法律上はお金の貸し借りという契約が成立しました。ただし、これを知っているのは当事者本人同士だけです。誰かその場に証人として立ち会った訳でもなく、何一つお金の貸し借りの証拠が無いのです。ここに契約書を作成する意味があるといえます。
上記の例で言うと、Aさんは「すぐに返す」と言ってますが、この「すぐに」の意味をお互いにきちんと解釈しているのでしょうか。Aさんは「急いで明日明後日には返そう」もしくは「次の飲みに行くときに返そう」と考えているかもしれません。Bさんは「すぐだから1週間位で返ってくるかな」もしくは「さすがに次の給料日後には返すだろう」と、お互いの解釈はちぐはぐです。
そこで、契約書を作成して、当事者の間で「○月○日に○○円を返す」などと記載することで、当事者の間での解釈の違いや相互の思い違いが起きないように契約内容を明確にします。
契約書を残すことで、言った言わない等といった無用な争いや、相互の勘違いによる不信感で友情が壊れたりすることが無くなります。なぜなら、契約書という書面にしっかりと書いてあり、当事者の署名押印がなされるのが通常だからです。この署名押印がなされた契約書によって言い逃れは難しくなるでしょうし、二人で内容を確認した証明にもなります。さらに、将来もし返してもらえなかった場合の制裁の条項を入れることによって、いざという際の紛争解決が図られ、迅速に処理されるというメリットがあります。すなわち、契約書に将来想定されるようなリスクを分析して紛争に対して予防的な記載をすることが可能ということです。
契約書の最大の効果は紛争の予防といえます。また、契約書を作成することによって当事者の信頼関係が保全される効果も付属すると思われます。
上記の口約束の例では証拠が全くありませんでした。契約書や借用書なり、書面でしっかり残されればこの書面が消失しない限り、お金の貸し借りの証拠が保全されていることとなります。また、この契約書を取り交わすことで、心理的に「お金を5万円借りたんだ」と借りた側は再認識し、「契約書に○月○日に○○円返すと書いたからしっかり返さないといけない」などと間接的にお金を返す強制力が働くことが期待されます。また、貸した側としては契約書を取り交わすことでお金を貸したことの印象が強く残り、書面がある限り、ふとした瞬間に「そういえばAさんに5万円貸したんだっけ」と忘れることを防止する効果もあります。そして、万が一返済がない場合には、この契約書を証拠として民事裁判を起こし、強制的に返してもらえるという可能性も高まります。
上記の事例は、「契約書」というものに馴染みのない日常生活の一場面を想定しましたが、もちろん企業法務としての企業間取引でも契約書は重要です。
2016/12/24